・ハクサンホシシリアゲ Panorpa hakusanensis 

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・写真1(左)、写真2(右)  雄 2011/7/3 (長野県松本市入山辺で採集) 室内          

・視覚的特徴:全身が黄色く、翅の斑紋は特徴的である。よく似たシリアゲムシに、ニッコウホシシリアゲがいるが、こちらは翅の紋様が微妙に異なっている。また腹部第3節に、ホシシリアゲ群の雄の特徴である長い背器官(写真2)を持っている。

・出現時期:6月から7月にかけて見られる。

・分布と生息状況本州中部の山地に分布する。山地性の種で、採集は困難である。

・交尾行動:詳しくは分からないが、おそらく唾 液を吐かずに、餌を使った婚姻贈呈、婚姻贈呈を伴わない交尾という二つの交尾戦略をとると思われる。また、前述の通り、本種は他のシリアゲムシに比べ異様 に長い背器官を持っていて、これを交尾の際、メスを挟むために使用する。また、通常、シリアゲムシの雄が交尾前に翅をばたつかせて行うディスプレイが見られず、雄は突然、ハサミで雌に掴みかかる。

・特殊な交尾の観察例
写真2で、右の個体が雄(奥側が頭部となる。そこから飛び出して見える白い突起は触角)で、翅の隙間から伸びている黄緑色の棒状突起が、発達した背器官である。 写真では少し分かりにくいが、上から順に、雄の翅、雄の背器官、雌の翅、雄の腹部(の先端にあるハサミ)、という風に重なっていて、通常、雄は背器官と腹部 で雄の翅を挟み固定する。この体勢のまま、ハサミで雌の交尾器を掴めれば交尾成功となるが、この写真の雄は雌の交尾器を掴めていない。雌が交尾を拒否して いると思われる。しかし雄が、その長い背器官でガッチリと雌を固定しているため、雌は雄から離れられない。雄が雌を引っ張ったり、逆に雌が雄を引っ張った りという、交尾を巡る激しい争いを経て、この写真の数分後、雄の背器官が雌の翅から外れ、完全に交尾は失敗となった。

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・写真3  2011/7/7 交尾しようとする雄(右)と、それを拒否する雌(左) (長野県松本市入山辺で採集)  室内 
 右の写真は、雄の背器官のアップ

・特殊な背器官の形態
本種の特殊化した背器官をよく観察すると、背器官の下側、及び腹部第4節に毛が生えていることが分かる(写真)。種に関わらずシリアゲムシの体は、顕微鏡で観察すると全体的に 毛が生えてはいるが、本種における、この二ヶ所の毛は特に長く太いように見える。更に、毛の向きは微妙に内側を向いていて、ちょうど釣針のかえしのように、挟んだメスの 翅が抜けにくくなっていると思われる。
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・写真4 2011/7/29 (長野県松本市入山辺で採集) 室内



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