シリアゲムシとは?

 

 

 

シリアゲムシとは?


分類:広義では長翅目(シリアゲムシ目) 全体、狭義では長翅目のうちシリアゲムシ科に属する昆虫の総称。長翅目は完全変態(幼虫→蛹→成虫と変化すること。例:チョウやカブトムシなど) する昆虫のうち、最も原始的なグループであると考えられています。
 


特徴
:シリアゲムシは吻が長く、細長い顔をしています。また、雄は大きなハサミを腹部末端に持っています。ハサミの様子が尻を上げているように見えるので、シリアゲムシと呼ばれています。無毒ですが、雄のハサミがサソリ(scorpion) を連想することから、英名はscorpionflyです(なぜか英名はカッコイイ。いや、シリアゲムシって名前もユーモアがあっていいとは思いますが……)。湿った林などに棲んでいて、特に沢沿いによく見られます。昆虫の死体や果実、花など、割と何でも食べます。ネットでは、肉食という記述を度々見かけます。弱っている昆虫などを食べることはあるかもしれませんが、基本的に獲物を捕獲するようなことはありません。どちらかと言えば、スカベンジャー(腐肉食者) です。一応、翅があるので飛べますが、あまり得意ではありません。飛行というより、滑空に近い飛び方をします。

    
↑キバネシリアゲ(左は雄のハサミのアップ、右は雌)。見た目は凶暴そうな雄のハサミですが、基本的に交尾の際、雌を掴むための器官なので、挟まれても全く痛くありません。毒もなく、特に噛みつくこともないので、素手でも捕まえられます。

一体、シリアゲムシの何が面白いか?
 → 交尾形態の特異性
シリアゲムシ
は交尾の際、婚姻贈呈という特異な行動をとることが知られています。
婚姻贈呈とは、雄が雌にプレゼントを渡して交尾する行動のことです。

また、一般的に、シリアゲムシの交尾には以下の三つの交尾戦略があると言われています。

@雄が見付けた餌を雌にプレゼントすることで、婚姻贈呈を行う。
A雄が自分の唾液の塊を雌にプレゼントすることで、婚姻贈呈を行う。

B婚姻贈呈を行わずに、交尾をする。 

Aの交尾が、シリアゲムシ特有の婚姻贈呈です。シリアゲムシの唾液腺は非常に発達していて、交尾の際、雄は口から特別な唾液を吐きます。唾液というと液体を想像されるかもしれませんが、シリアゲムシの唾液は口から出るとすぐに固まって、ちょうどゼリーのようになります。これを雌が食べて交尾するわけです。唾液の塊の色は種によって様々で、茶色いものから綺麗な緑色をしたものまであります。

但し、全ての雄が唾液を吐くわけではなく、唾液を吐かない、つまり
Aの交尾を行わない種も幾つか存在します(上の写真のキバネシリアゲもその一例です)。

    
↑ホソマダラシリアゲの唾液は青白色         ↑プライアシリアゲの唾液は褐色

この唾液ですが、幼虫から成虫になる間に、よく餌を食べられた雄の方が、あまり餌を食べられなかった雄より、多く唾液を吐くことが知られています。更に雌は、分泌する唾液が少なかったり、唾液を出さなかったりする雄との交尾を拒否するため、より多くの唾液を吐く雄は、より長く交尾ができ、自分の子孫を多く残すことができます。しかし唾液を吐くにはコストがかかるため、あまり唾液をたくさん吐きすぎると、唾液は出にくくなります。そういう場合は、しばらく休んだり餌を食べたりして、唾液が出るようになるまで待たねばなりません。

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↑左の写真は、雄のシバカワトゲシリアゲの背器官。画面中央の盛り上がった出っ張りが背器官です。(右下の突起はトゲで、背器官ではありません)

↑右の写真は、雄のハクサンホシシリアゲの背器官。折れそうなくらい長い背器官が、よく目立ちます。


また、シリアゲムシの雄の腹部背面側(腹部第3節後縁と腹部第4節前縁で形成される) には、背器官と呼ばれる小さな突起があります。この突起は交尾の際、雄が雌の翅を挟むようにできています。これによって、雄は雌を固定し、交尾しやすくしていると考えられています。ホシシリアゲの仲間は、特に背器官が発達しています。

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↑キシタトゲシリアゲの雄のトゲ(画面中央の少し上寄りの突起)      ↑ハクサンシリアゲの雄のハサミ(画面中央の少し右寄り)

更にトゲシリアゲ群には角状のトゲ(腹部第6節) が、ハクサンシリアゲとオオハサミシリアゲにはハサミ状の突起(腹部第7節) があり、これらの器官も交尾の際、何かの役に立っている可能性もありますが、今のところ詳しいことは分かっていません。





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